スポーツの倫理観~サッカーW杯・ラグビーW杯から考える~


 

~授業課題~

 

2018年サッカーロシアW杯、予選リーグで日本とセネガルは勝ち点4、得失点差0、総得点4、直接対決の結果も2-2で引き分け

 

フェアプレーポイント(FPP:反則の少ない方が勝ち上がる)による順位決定が初適用された(日本が2位、セネガルが3位)

 

しかし、日本の戦略に物議が沸いた

 

最終戦、セネガルがコロンビアに0-1で敗れた結果を知った日本は、ポーランドに0-1で負けていたのにもかかわらず、攻撃の選手を交代させ守備の選手を投入

 

得点を取りにいくのではなく、0-1で負ける戦略をとった

 

→ロンドンオリンピック(バドミントン)は決勝トーナメントを有利にするために負ける戦略をとった選手が失格になった一方、サッカーW杯では0-1で負ける戦略をとった日本は失格にならなかった。この違いを考察せよ。

 

 

~総評~

スポーツは「楽しい」ものであるという本質をサッカーW杯ロシア大会の日本の戦略は見失っていた。確かに決勝トーナメントに行けるか、行けないかは大きな差である。予選リーグ3試合を1つのゲームとして考えることから、その中の1試合負ける戦略をとることは問題ないとする意見もある。それはオリンピックのバドミントンでも同じことが言えるが、この場合は失格処分が科された。また、サッカーは自陣のエリアでボールを回していても、そこからカウンターを狙うという可能性もあるため、バドミントンのように負ける戦略と即座に認定することは難しいという意見もある。しかし、試合後の報道をみれば、グッドゲームであったとは言えない。負ける戦略をとり、2位を狙った日本をみて、競い合っていたセネガルの人たちはどう思うか。チケットを買い、試合を観戦にきた人たちはどう思うか。勝負のプレッシャーが大きくかかる日本代表選手は、日本が決勝トーナメントにいくことを優先するばかりに他者への配慮を見失った戦略をとってしまった。

 

一方、対象的な事例としてラグビーW杯イングランド大会の日本の戦略がある。南アフリカは優勝候補筆頭の世界トップレベルのチームであるのに対し、日本はW杯で一勝もしたことがないチームである。しかしこの試合、日本は南アフリカに劇的な勝利を果たす。後半残り1分、ヘッドコーチはPG(ポイントゴール)にて3点をとり、引き分けを狙うように指示をする。しかし選手たちは指示に従わずトライ(5点)を狙い、逆転する戦略をとった。その結果、歴史的な勝利を勝ち取り、日本のラグビーが世界中から注目されるようになり、多くのファンが増えた。

 

サッカーW杯 ロシア大会(2018年)

日本vs ポーランド戦後の報道

・ 「恥知らず」。ボルゴグラードの試合会場では、地元ロシアのファンらからブーイングが吹き荒れた。対戦相手ポーランドからは「フェアプレーに反する」と疑問の声が漏れた。

・英紙ガーディアンは日本が「フェアプレー」で1次リーグを突破したはずなのに、最もスポーツマンシップに反した試合になったと報じた。

・ブラジル有力紙グロボのスポーツサイトは「プロサッカーでは結果が全て」と認める一方、日本は「0-1のスコアより多くのものを失った」と強調した。

・1次リーグ敗退が決まった韓国の中央日報は「16強を逃しても拍手を受けた韓国、16強に進んでもブーイングを浴びた日本」と対比した。

・もっとも大きな被害を受けたのは、結局、観客たちだ。その目で直接、「世界のお祭り」であるワールドカップを見るという期待感を膨らませ、高いチケット代を喜んで払って競技場に入場した観客たちは、勝利のために選手たちが流すはずの血と汗の代わりに、意味なく転がるサッカーボールを眺めていなければならなかった。

 

ラグビーW杯 イングランド大会(2015年)

日本 vs 南アフリカ戦後の報道

南アフリカはW杯で優勝2度の強豪。体格の大きさは世界トップ。メディアやファンの中でも、24年間もW杯で勝利のない日本が勝つと思っている人は皆無だった。

前半はラインアウトからモールを押し込まれる形で2本のトライを許したが、日本も同じ形でトライ。10―12で折り返した。

後半は日本の防御に少しずつほころびが見えてきた。南アの強力な突破にタックルミスが重なり、2トライを献上。それでも日本はPGを次々と決めて追いすがる。勝負の分かれ目は29―29で迎えた後半31分だった。南アがゴール前まで迫って連続攻撃。止め続ける日本。南アがPKを得た。スクラムか。速攻か。タッチに蹴ってラインアウトからモールを押し込むか。いずれにせよトライを狙いにくるかと思われたが、南アは意外にもPGを選択。日本の粘りの防御に手を焼き、確実にリードを3点広げる方を選んだ。

3点を追い、残り約9分。ここからの日本の攻撃は見事だった。ラックを20回以上も連続して支配し、約60メートルを進んでゴール前まで攻め込んだ。スタンドからは「ジャーパン、ジャーパン」との大声援。日本は予想外の健闘で観衆のほとんどを味方につけた。必死に止める南ア。残り約1分。PGなら簡単に成功できる位置。決めればドローに持ち込める。しかし、リーチ主将の選択は違った。狙うは逆転トライだけ。「引き分けでは歴史は変わらない」。ジョーンズHCはPGの指示を出していたが、選手の気持ちは一つだった。日本はスクラムトライを取ろうと押し込み、左隅インゴールへ。34―32。奇跡の逆転トライ。ラグビー史が変わった瞬間だった。

負ける戦略をとるか、負けることを怖がらずに勝ちに行く戦略をとるか

 

前者は酷評となり、後者は世界中から賛辞を贈られる結果となった

 

例えば、あなたが部活の顧問に就いたとする

 

大会の予選リーグで負ければ決勝トーナメントが有利になるとした場合、自身はどちらの指示をだすのか考えてほしい

 

負けることを怖がらずに全力で勝ちにいきなさい

 

2位になれば決勝トーナメントが有利になるから負けなさい

 

勝利至上主義の欲に飲まれ、スポーツの価値を損ねる決断をしないように指導者は適切な倫理感を持たなければならない

 

 

・PG(ポイントゴール)(3点)

⇒相手の反則によって与えられるペナルティキックで、反則が起きた地点からキックし、ボールがゴールポストの間でクロスバーの上を越えると得点。

・トライ(5点)

⇒ボールを相手チームのインゴールに持ち込んで、地面につけると得点。

・ペネルティキック

オフサイドや危険なタックル等の重い反則があった場合に相手チームに与えられる。反則したチームはその地点より10m後退し、直接ゴール(PG)を狙うことができる。

 


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